相続土地国庫帰属制度の費用と使いどころ。いくらかかる?引き取ってもらえない土地と申請の流れ
公開日: 2026年7月31日
「売れない、貸せない、寄付も断られた。この土地、国が引き取ってくれないのか」——その問いに正面から答える制度が、2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度です。相続したいらない土地を、審査を経て国に引き取ってもらえます。
ただし、タダではありません。審査手数料と負担金でおおむね21万円以上の持ち出しがあり、引き取ってもらえない土地の条件も細かく決まっています。この記事では、費用・要件・手続きの実際と、「売却・寄付・相続放棄」と比べたときの使いどころを整理します。
制度の概要——誰が・どんな土地を返せるのか
相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈(相続人への遺贈に限る)で取得した土地について、法務大臣(窓口は法務局)の承認を受けて所有権を国庫に帰属させる仕組みです。ポイントは次のとおりです。
- 土地のみが対象:建物は対象外です。実家の建物が建ったままでは申請できず、先に解体する必要があります
- 昔の相続でも使える:制度開始(2023年4月27日)より前に相続した土地も対象です。「何十年も前に相続した山林」でも申請できます
- 売買で買った土地は対象外:自分で購入した土地は、相続で得たものではないため使えません
- 共有地は全員で申請:共有名義の土地は共有者全員での申請が必要です(共有者の中に売買で持分を取得した人がいても、相続で取得した人が含まれていれば全員で申請できます)
費用——「審査手数料+負担金」で最低21万円台から
費用は2段階です。
- 審査手数料:土地一筆あたり1万4,000円。申請時に収入印紙で納めます。審査の結果、却下・不承認になっても返還されません
- 負担金:承認された場合に納める「10年分の土地管理費相当額」で、原則として一筆20万円です。ただし、市街化区域や用途地域内の宅地、農用地区域内などの農地、森林は面積に応じた算定となり、面積が広いほど高くなります。負担金は承認通知から30日以内に納付しないと承認が失効します
なお、隣接する同じ種目の土地(例:隣り合う2筆の原野)は、申出によりまとめて一筆分の負担金にできる特例があります。複数筆をまとめて手放したい場合は必ず確認したいポイントです。
このほか実務上は、書類収集・境界資料の準備・(必要なら)司法書士等への申請書類作成の依頼費用、建物があれば解体費用(相場は家の解体費用はいくらかかる?を参照)が加わります。「国に返すのもタダではない」という前提で資金計画を立ててください。
引き取ってもらえない土地——2段階のハードル
どんな土地でも引き取られるわけではありません。要件は「申請の段階で門前払いになるもの(却下要件)」と「審査の結果ダメになるもの(不承認要件)」の2段階です。
申請すらできない土地(却下要件)
- 建物がある土地
- 抵当権などの担保権や、賃借権などの使用収益権が設定されている土地
- 通路など他人による使用が予定されている土地
- 土壌汚染がある土地
- 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲に争いがある土地
実務でつまずきやすいのが最後の境界です。田舎の土地は境界標がなく隣地との線が曖昧なことが多く、申請には境界点を示した写真等の資料が求められます。測量までは必須とされていませんが、隣接所有者との認識が食い違っていれば前に進めません。
審査で不承認になる土地(不承認要件)
- 勾配30度以上かつ高さ5m以上の崖があり、管理に過分の費用・労力がかかる土地
- 管理・処分を阻害する車両・樹木などの工作物等が地上にある土地
- 除去が必要な地下埋設物(浄化槽・古い基礎・廃棄物など)がある土地
- 隣接地の所有者との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に過分の費用・労力がかかる土地
要するに「国が引き取った後、普通に管理できる状態の土地」であることが求められます。荒れ放題の土地をそのまま、というわけにはいかず、手放すための整備(残置物撤去・伐採・境界確認)に先行投資が必要になるケースが多いのが実情です。
申請から帰属までの流れと期間
- 法務局へ事前相談:管轄の法務局(本局)で、対象になりそうか・必要書類は何かを確認します。相談は予約制で、土地の状況が分かる資料や写真を持参します
- 申請書類の提出:申請書、土地の位置・範囲や境界点が分かる図面・写真、遺産分割協議書など取得原因を示す書類等を提出し、審査手数料を納付
- 法務局による審査・実地調査:書面審査に加え、現地調査が行われます。標準処理期間はおおむね8ヶ月とされています
- 承認・負担金の納付:承認通知を受けてから30日以内に負担金を納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属します
申請書類の作成は自分でもできますが、代行を依頼する場合の依頼先は弁護士・司法書士・行政書士に限られます。境界資料や相続関係の書類が複雑な場合は、早めに専門家へ相談するのが近道です。
使いどころ——売却・寄付・相続放棄との比較
国庫帰属は便利な制度ですが、約21万円以上を払って手放す手段である以上、検討の順序が重要です。
| 手段 | 手元に残るもの | 主なハードル |
|---|---|---|
| 売却(仲介・買取) | 売却代金(プラスの可能性) | 買い手・買取業者がつくか |
| 隣地への譲渡・寄付 | ゼロ〜わずか | 相手にメリットがあるか |
| 相続土地国庫帰属 | マイナス約21万円〜+整備費 | 要件(建物なし・境界など)・審査 |
| 相続放棄 | 全財産を失う | 3ヶ月の期限・撤回不可・全部放棄 |
- まず売却を検討し尽くす:数十万円でも売れれば、国庫帰属より確実にプラスです。地方の土地・古家でも、空き家や訳あり物件の専門買取業者が引き取れるケースがあります。売れない土地の選択肢の全体像は田舎の実家が売れないときの選択肢で整理しています
- 相続放棄との違い:放棄は「その土地だけ」を手放すことはできず、預金なども含めた全財産を失います(期限3ヶ月・詳細は相続放棄したら家はどうなる?)。一方、国庫帰属は相続を受け入れた上で、特定の土地だけを後から手放せるのが決定的な違いです。「財産は相続したいが、この山林だけいらない」という典型的なニーズに応えます
- 向いているケース:建物のない(または解体予定の)地方の土地で、売却・譲渡の見込みが立たず、管理負担と将来世代への先送りを確実に断ち切りたい場合。管理コストが10年分の負担金を上回るなら、経済合理性も成り立ちます
「国に返す」前に、その土地の出口を確かめる
国庫帰属は要件・費用・期間のハードルがある「最後の受け皿」です。その手前に、手元にプラスが残る出口が本当にないのか——ここを確かめずに約21万円+整備費の持ち出しを決めるのは、順序として損をしかねません。
家じまい診断では、物件の状況にいくつか答えるだけで、売却の難易度と向いている選択肢・相談先の傾向を無料で確認できます。氏名や連絡先の入力は不要です。相続した不動産の手続き全体の流れは相続した家・不動産の売却ガイドにまとめています。国庫帰属の申請可否や書類作成は、法務局の事前相談と弁護士・司法書士・行政書士にご確認ください。
※本記事は2026年7月時点の法令・情報(法務省公表資料)をもとに作成しています。却下・不承認要件の該当性や負担金の算定は個別の土地の状況によって異なります。具体的なケースについては、管轄法務局の事前相談や弁護士・司法書士・行政書士などの専門家にご確認ください。
※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の物件の評価や税務・法務のアドバイスを行うものではありません。具体的な判断にあたっては、宅地建物取引業者などの専門家にご相談ください。