親名義のままの実家は売れるのか|相続登記の義務化と名義変更の進め方
公開日: 2026年8月7日
「実家を売ろうと不動産会社に相談したら、まず名義を直してくださいと言われた」——相続した実家の売却で、最初につまずくのがこの登記の問題です。
そして2024年4月から、相続登記は義務になりました。放置していると売れないだけでなく、過料の対象にもなり得ます。
この記事では、なぜ親名義のままでは売れないのか、義務化で何がどう変わったのか、名義変更にいくらかかり何から手をつければいいのかを整理します。
名義人が死亡した家は、なぜそのままでは売れないのか
不動産を売れるのは、原則として**登記簿に所有者として記録されている人(登記名義人)**です。亡くなった親の名義のままでは、売買契約を結ぶことも、買主へ所有権を移すこともできません。
相続が起きた瞬間に、その不動産は相続人のものになります。ただしそれが登記に反映されるのは自動ではなく、相続人が申請してはじめて名義が変わります。この「実態は自分のもの、登記は親のまま」という状態が、売却の手前で必ず引っかかります。
買主側から見れば、登記が動かない不動産は住宅ローンも組めず、取引そのものが成立しません。したがって、遅くとも決済・引き渡しまでに相続登記が終わっていることが売却の絶対条件になります。
以前は「面倒だから後回し」で済んでいましたが、2024年4月から相続登記は法律上の義務になりました。売る予定があるかどうかにかかわらず、期限内に手続きをする必要があります。
相続登記の義務化——3年ルールと2つの起算点
2024年4月1日に施行された改正で、相続で不動産を取得した人には登記の申請義務が課されました(不動産登記法76条の2)。押さえるべきは次の3点です。
① 期限は3年。起算点は状況で変わる
| ケース | 期限 |
|---|---|
| 相続で所有権を取得した | 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内 |
| いったん法定相続分で登記した後に遺産分割がまとまった | 遺産分割の日から3年以内(その分割で相続分を超えて取得した人) |
起算点が「相続が起きた日」ではなく「知った日」である点に注意してください。疎遠な親族の相続で後から知らされた場合は、知った時点から数えます。
② 2024年4月より前の相続も対象
「うちの相続は10年前だから関係ない」とはなりません。改正法の附則により、施行日前に発生した相続にも適用されます。この場合の期限は、「取得を知った日」と「施行日(2024年4月1日)」のいずれか遅い日から3年以内です。つまり、昔の相続も2027年3月末までが一つの目安になります。長く放置されてきた「祖父名義のまま」の不動産こそ、この改正の主なターゲットです。
③ 怠ると10万円以下の過料
正当な理由がないのに申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象になります(同法164条)。「正当な理由」には、相続人が極めて多数で戸籍の収集に時間がかかる、相続人の間で争いがあって分割がまとまらない、といった事情が想定されています。手続きが難しいケースを一律に罰する制度ではありませんが、放置し続ける言い訳にはなりません。
「相続人申告登記」では売れない
義務化とセットで、相続人申告登記という簡易な手続きが新設されました(同法76条の3)。登記官に対して「この不動産の名義人について相続が開始した」「自分はその相続人だ」と申し出るもので、期限内に申し出れば申請義務を履行したものとみなされます。
戸籍一式を揃えて全員で協議する必要がなく、相続人が1人で申し出られるため、遺産分割がまとまらないときの受け皿として有効です。
ただし、ここが誤解されやすい点です。相続人申告登記は所有権の移転登記ではありません。 登記簿に「相続人はこの人です」と付記されるだけで、名義そのものは変わらないため、この状態では不動産を売ることはできません。
- 売る予定がない・分割が長引きそう → 過料を避ける応急処置として有効
- 売りたい・使いたい → 結局は通常の相続登記(所有権移転)が必要
売却を視野に入れているなら、申告登記で止めずに本来の登記まで進める必要があります。
名義変更の進め方——4つのステップ
ステップ1: 相続人を確定する(戸籍の収集)
亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)と、相続人全員の戸籍を集めます。転籍が多い方だと複数の役所にまたがり、郵送でのやり取りも含めて数週間から1〜2ヶ月かかることがあります。ここが実務上いちばん時間を食う工程です。
なお、集めた戸籍をもとに法務局で法定相続情報一覧図の交付を受けておくと、その後の登記・金融機関・税務署の手続きで戸籍束の代わりに使え、コピーを何度も取る手間が減ります。
ステップ2: 遺産分割協議で取得者を決める
誰がその不動産を取得するかを相続人全員で決め、遺産分割協議書にまとめて全員が実印を押し、印鑑証明書を添えます。1人でも欠けると成立しません。
ここで「とりあえず全員の共有名義にしておく」という選択は慎重に。売却には共有者全員の同意が必要になり、次の相続で持分がさらに細分化していきます(詳しくは共有名義・共有持分の家は売れる?)。話し合いの進め方は実家をどうするか兄弟で決める「家族会議」の進め方にまとめました。
ステップ3: 登記を申請する
必要書類を揃えて、その不動産を管轄する法務局に申請します。オンライン申請にも対応しています。申請から完了までは、内容や法務局の混み具合にもよりますがおおむね1〜2週間程度が目安です。
申請そのものは自分で行うこともできますが、登記申請の代理は司法書士の業務です。相続人が多い、数次相続がからむ、権利関係が複雑といったケースでは、専門家に依頼するほうが結果的に早く安全です。
ステップ4: 売却に進む
名義が変われば、通常の不動産と同じように売却の手続きに入れます。売り方の選択は不動産の「買取」と「仲介」の違い、相続物件全体の流れは相続した家・不動産の売却ガイドを参照してください。
費用はいくらかかるか
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4%(評価額1,000万円なら4万円) |
| 戸籍・住民票などの取得費 | 数千円〜1万円程度(通数による) |
| 司法書士報酬(依頼する場合) | 数万円〜十数万円程度(相続人の数・物件数・難易度による) |
2027年3月31日までの免税措置が2つあります。ひとつは、価額100万円以下の土地について相続による所有権移転登記の登録免許税が免除されるもの。もうひとつは、相続した人が登記をしないまま亡くなった場合に、その人を名義人とするための中間の登記が免除されるものです。いずれも評価額の低い土地や、数次相続で放置されてきた不動産の登記を促すための措置で、まさに「祖父名義のまま」のケースに効きます。
つまずきやすい3つのケース
祖父名義のまま(数次相続)
親の代でも登記していなかった場合、相続人が10人以上に膨れ上がることがあります。会ったこともない親族の同意が必要になり、費用も手間も跳ね上がります。これは時間が経つほど確実に悪化する種類の問題です。今の時点で相続人が何人いるかだけでも、早めに把握しておく価値があります。
相続人と連絡が取れない・所在が不明
行方が分からない相続人がいる場合でも、家庭裁判所の手続き(不在者財産管理人の選任など)を通じて進める道はあります。時間はかかるため、専門家への相談が前提になります。
話がまとまらない
分割の合意ができないまま3年が近づく場合は、前述の相続人申告登記で義務だけ先に果たしておく、という順序が現実的です。売却はその先の課題として残りますが、過料のリスクは切り離せます。
売却スケジュールと期限の重なりに注意
相続した実家を売る場合、名義変更は単独のタスクではなく、他の期限と絡み合っています。
- 相続税の申告・納付は相続開始から10ヶ月
- 相続登記の義務は3年(起算点は前述)
- 空き家の3,000万円特別控除を使うなら、相続開始から3年を経過する日の属する年の年末までの売却(空き家の3,000万円特別控除とは)
- 戸籍収集に1〜2ヶ月、協議に数ヶ月、売却活動に数ヶ月——逆算すると余裕は思うほどありません
とくに控除を使いたい場合、「名義変更に手間取って期限を過ぎた」では数百万円単位の差になり得ます。売る可能性があるなら、名義変更は売ると決めてからではなく、判断と並行して進めておくのが安全です。
まず自分の実家の状況を整理する
名義が誰か、相続人が何人いるか、売れる物件なのか——この3つが分かれば、次に相談すべき相手(司法書士なのか、不動産会社なのか)が決まります。
家じまい診断では、物件の状況にいくつか答えるだけで、売却の難易度と向いている選択肢の傾向を無料で確認できます。名義の状況も設問に含まれているので、「名義が親のままだと何が問題になるのか」の見当をつける入口として使えます。氏名や連絡先の入力は不要です。
実家じまい全体の流れは実家じまい完全ガイドにまとめています。
※本記事は2026年8月時点の法令・情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別の登記手続きの代理や税務・法務のアドバイスを行うものではありません。登記申請の代理は司法書士の業務です。具体的な手続き・費用・適用の可否については、司法書士・税理士・法務局の窓口などにご確認ください。
※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の物件の評価や税務・法務のアドバイスを行うものではありません。具体的な判断にあたっては、宅地建物取引業者などの専門家にご相談ください。